これまでのA Mindset for Learningのダイジェストのダイジェストを作ってみようと思います。
教師は教室のストーリーテラー
読み聞かせが本を通して、いろいろな価値や意味を伝える活動だとするならば、それと同じか、またはそれ以上に、教室の物語にいろいろな価値や意味を付帯させて、教師や子どもたちが物語ることは、重要です。
僕は今、5つのスタンスをセルフトークや物語を通じて伝えていく実践を行っています。子どもたちのマインドセットを育てていくということです。
マインドセットを育てる
マインドセットは『マインドセット「やればできる! 」の研究』にもある通り、子どもや大人の生き方や人格形成において、極めて重要です。マインドセットがしなやかであるならば、より自分を肯定的に、前向きに、幸福感を感じて生きることができます。
今までそれは、家庭教育が行ってきた領域でした。けれど、教師をしていると切々と感じることは、マインドセットと言われる自己有用感や幸福の感受性(レセプター)が高い子は、学習意欲や学力も高いということです。これは、「タマゴが先かニワトリが先か」のように、学力が高いから自己有用感が高いのか、自己有用感が高いから学力が高いのか、僕にもよく分かりませんが、2つが相関関係にあることは、何となく肌で分かっています。
それでは、学力の方ばかりにアプローチするのではなくて、マインドセットを育てるというアプローチがあるのではないだろうか? というが、実践に踏み出した契機になります。それは、学習内容や汎用的スキルよりも重要度が高いように思います。それらのベースになっている心がマインドセットだからです。今まで、関心・意欲・態度と学校では表現されてきましたが、それ自体を育てる視点はあまり論じられていなかったように感じられます。しかも、教科別に切り離されしまい、論じられにくい領域でした。そこに、直接アプローチする方法があるのではないか? というが、5つのスタンスの実践です。
5つのスタンスとは
僕のクラスでは、上のように掲示しています。
- 前向きに考える (0ptimism)
- 失敗しても立ち直る (Resilience)
- いろいろやってみる (Flexibility)
- がまん強くやる (Persistence)
- 共感する (Empathy)
そして、その価値を表すマークも決めました。子どもたちがマークを使いやすいように、シンプルなものにしています。
このひとつひとつの価値の詳しい内容は、以下のリンクを辿って読んでみてください。
教師がもつべき5つのスタンス 前編 前向きに いろいろなやり方で 失敗からしなやかに 教師がもつべき5つのスタンス 後編 ねばり強く 相手の気持を考えて
セルフトークを可視化して、マインドセットを育む
人は、起きている時間のうち、半分以上を自分との対話(セルフトーク)や物思いに使っているという研究があるそうです。それだけ、わたしたちはセルフトークに左右されて生きています。
そのセルフトークをポジティブなものにしたり、共感的なものにすることで、マインドセットをしなやかにすることができます。けれど、こういうことを家族が教えてくれれば良いのですが、逆に家族の影響でそれとは反対のマインドセットを付けつけられてしまっている子も多いはず。家族の次に関わる量の多い教師が、学校生活の中で、マインドセットをしなやかにすることができたならば、子どもたちはそれによってより良い生き方ができるはずです。
そこで、僕は、5つのスタンスをがんばろうとしている時に、心の声でどうやって自分と話をしているのかを子どもたちに聞いてみました。
前向きに考える (0ptimism)のときのセルフトーク
- まあいいじゃん、次があるし
- できなくても大丈夫!
- しかたない!
がまん強くやる (Persistence)のときのセルフトーク
- がまん、がまん。
- あきらめたら試合終了だよ
- おちつけ、おちつけ
- くやしい! 絶対やってみせる!
上のように、子どもたちはそれぞれ、いろいろなセルフトークをもっていて、それを場面場面に応じて良いものを選択しながら、使っているようです。
しかし、このようなセルフトークを持ち合わせていなかったり、セルフトークのバラエティが少ない場合、しなやかなマインドセットを維持できなかったり、自分の心を安定的に保つことができなかったりすることがあります。
そこで、セルフトーク自体を可視化することによって、マインドセットをしなやかにメンテナンスする方法を提示していくようにしています。僕の場合は、これをポストカード風にして、教室の中に掲示しています。また、私自身も、子どもたちのセルフトークを取り上げて話をしたりすることで、その言葉を積極的に使うようにしています。
うちの学校でも、ふわふわ言葉という実践がよく行われています。それは子どもたちは既に心得ているので、言葉によって表出される前の段階から、しなやかマインドセットにするセルフトークを自分の十八番として大切にしていこうという実践です。
物語にのせてエピソードを敷衍する
物語は、価値や意味をよく溶け込ませて、人に伝わりやすくする溶媒の役割を果たします。まるで水のような存在です。体に必要な塩や、健康を保つ薬は、辛かったり苦かったりして、なかなか飲めないですが、スープにしたり、糖衣にしたりすることで、摂取しやすくなります。そのようなイメージで、5つのスタンスを物語という溶媒に溶け込ませることによって、子どもたちに伝わりやすくしていこうとする取り組みです。
僕はこれをジャーナル(振り返りジャーナル)という実践と掛け合わせて行っています。
岩瀬さんの実践のように、毎日というわけにはいきませんが、週に1度程度、5つのスタンスがうまく発揮できたエピソードをジャーナルの中で紹介してもらいます。その中で、どんなセルフトークを使ったのかも、あわせて書いてもらいます。マークも登場して、ノートの中には、イラストなども入ります。
それを僕が読んで、これを紹介したいというものを選び出します。そして、事前に選びだした子と打ち合わせをして、物語を「作家の椅子」に座って、語ってもらう準備をしてもらいます。
「作家の椅子」とは、ライティング・ワークショップ(作家の時間)の中に登場する、共有や出版の一つの手段として扱われる方法で、少し豪華な椅子(うちのクラスの椅子は全然豪華でないのが残念)に腰掛けて、書いた作品を読み上げる方法です。読み上げた後、ファンレターという温かいメッセージももらうことができます。
子どもは、作家の椅子に座って、自分の5つのスタンスの1つが発揮された物語を、ストーリーテリングします。ただのエピソードも、物語のように脚色して、語れるように準備します。たとえば、「岩のように立ちはだかった算数の図形の問題」「「あきらめちゃダメだ!」という天の声」みたいな表現を散りばめていくようなイメージです。
子どもは最初はこれは難しいので、僕が隣りに座って、そのような表現を絡めた「合いの手」を出して、サポートしていきます。子どもはこれがすごく大好きで、教室中が笑いに包まれます。最後、ドラゴン(算数の問題)を倒して、勝ち誇ったストーリーテラーの子の誇らしい顔に、子どもたちの拍手が巻き起こります。セルフトークを武器にして闘った主人公が、聞いた子どもたちの心のなかに広がっていきます。
まだまだ実践も踏み出したばかり
4月の半ばからはじめているので、まだまだ序盤ですが、手応えを感じています。5つのスタンスが育っているかどうかは、まだよく分かりませんが、教室が温かい雰囲気に包まれていることは確実に感じています。しなやかマインドセットのエコシステムが機能しているのだと思います。
The Mindset for Learnersも半分過ぎしか読めていませんが、アメリカの先進的な実践を日本の教室に落とし込んで、実践を続けていこうと思います。
コメント