特別支援教育の現場で育った子どもは、どのような生涯を歩んでいくのだろう?

old window red paint green grass 2114475 特別支援教育
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特別支援学級の子どものキャリア

僕が特別支援の現場に関わるようになって、もう4年目。当初から、この問は気になっていて、自分なりに本を読んだり、研修を受けたりして、学んできましたが、実体験を伴っていないのでふわふわした感じがします。

本来であれば、15年以上も一般級をやってきて、支援級や一般級など関係なく、自分の教えた子がどのような生き方をしているのか、もっと知るべきだと思います。どこ級に在籍しているのかなど関係なく、学校に馴染めなかった子どもはこれまで大勢いて、その子たちのこれからに、関心をもてていなかった自分が、恥ずかしいなあと。1年勝負の一般級と違い、支援級は関わる期間が長いので、余計に気になります。不祥事などの問題もあり、卒業した児童と関わりを持つことがタブー化され、ますます学校在学期間さえ良ければいいという低い意識の関わりが常態化しています。僕は卒業生がどう生きているのかを見ることは、今になって、とても大切であるように思い始めています。

今回読んだ本は、これ。

『学び合い』の西川純さんの本ということで、気軽に手に入れました。

本の要旨を大雑把に簡単にいうと、学校現場で、人間関係、社会性、つながりを作れるようにしよう!ということです。

計算や読み書きではなく、人間関係で心に深い傷を負う

手帳の有無、障害の有無は関係なく、職場でうまく人間関係を作れなくて、離職を繰り返し、心の病を患ったり、最悪自死を選択してしまうケースがやはり多いそうです。自分を守るために、引きこもり生活が始まり、家族も計り知れない葛藤と直面します。そうならないために、学校現場の特別支援教育の場で何ができるか、というテーマです。

特別支援で学ぶ子どもたちも様々ですが、人間関係作りが苦手だったり、それを通り越して不安や恐怖を感じてしまう児童は多いです。僕は、人間関係作りが苦手というのは人それぞれ大なり小なりあると思いますが、人間に対して不安や恐怖を感じてしまうという現象は、二次障害的な要素が大きいように思っています。「苦手」と「不安」は切り離して考えないといけない。

人間関係作りが苦手でも、いろいろな先生や子どもたちと関われる機会は、その子に合わせて積極的に持ったほうが良いように思っています。この本にもある通り、掛け算九九や漢字の書き取りができなくて、就労に関して問題が生じるケースは稀です。「できること」「できないこと」をはっきり分かり、計算や漢字を読むことの代替手段は、けっこう多くあるものです。しかし、わからない時に助けを呼んだり、体調が悪いと相談したり、人の役に立とうとしたり、いつも笑顔でいられたりという人間関係作りにかかわる部分で、問題を抱えて深く傷つく子どもは多くいます。家庭ではその練習をすることはなかなか難しいでしょうから、学校現場の中でそれをその子に合わせて練習し、苦手なら苦手なりに体験を通じて身につけていくことは、確かに大切です。

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「できる」「できない」を、支援者も、自分も、分かる

今の学校現場だと、人間関係においても学習においても、「できない」と「特別支援で取り出して」というケースは多くあります。学校も余裕がなくて、一般級では「できない」に対して十分に手厚い支援が届けられないことも多くあります。また、特別支援がはじまると、「支援員」などの制度を活用して、「できない」を「できる」に安易に変えてしまいます。その子が支援要求ができなくても、その子が相談できなくても、支援員の手厚い支援によってすぐに「できる」に変わってしまう。これによって、たしかに学習に取り残されることはないですが、その子が本当に身につけなければならない人間関係作りのスキルに過剰な支援が入り、学校現場でその子の実態が見えにくくなってしまいます。また、その子の「できる」「できない」がよくわからなくなってしまうのも問題です。その子が学校生活だけを見れば、無事にこなせているように見えますが、過剰な支援を続けていると、特別支援教育が終わって就労が始まる段階で、途端に支援をはずされてしまい、行き場を失ってしまいます。特別支援というマンパワーがある間に、その子の「人間関係」という本丸と対峙していかないと、その後はまったくそれと向き合っていく時間と人の力はないかもしれません。

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問題を先送りにしない

かといって、考えなければならない点も多くあります。支援が届かないまま、人間関係を結ぶことに課題のある子どもを、一般級という人間関係の渦に放り込んでしまったら、溺れてしまって、取り返しのつかない心の傷をつくるケースもあるでしょう。二次障害を作らないことも、学校では大切なことです。かといって、二次障害を怖がりすぎて、温室育ちにしすぎてしまうのも。家庭によっては学校のストレスが、家で発露するケースがあり、学校では無理をさせたくないというスタンスの家庭がありますが、それについても長い目で見て、連携しながら提案していきたいものです。子どもにもよりますが、高学年まで交流をしていなかった子が、いきなり交流を始めるというのは無理な話です。低学年からその子の実態を考えて始めておかないと、後からでは難しいケースが多いと思います。

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学習の仕組み自体を変える

一般級の授業自体も変えていかないといけません。「できる」「できない」できっぱりと区別されてしまう学習ではなく、多様な分かり方・学び方が保証される教室を作らないといけません。どの分かり方・学び方にも優劣などなく価値があることを、子どもたち全員が理解していく必要があります。残念ながら、一つの学習で一つの力を身につけようとしている現在の学習の捉え方だと、教師にとっての分かりやすい「できる」「できない」で区分され、その間の無限の価値は排除されてしまいます。それでは、特に特別支援を受けている子どもにとっては、立つ瀬がありません。緩やかで幅の広い学習展開が必要です。ワークショップの学び方は、ひとつ提案できる学び方であるように思います。

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そうはいっても、基本的な学習を行うことにも価値がある

ドリルを使って四則計算や漢字の書き取りなど、特別支援の子が就労するにあたり、あまり意味のないスキルのようにも思えますが、毎日子どもと一緒に学習をしていると、そういうことを毎日ちゃんとやることにも、しっかり価値があるように思えてなりません。

「毎日学ぶことがきまっている」「それをやったら、自由時間がある」それは、子どもたちにとっては、本当に安全で安心できる学び方です。一方で、何をやるかわからない、不確定要素が多い学習は、子どもたちは不安です。ちゃんとやることをやって、お給料をもらい、自分の好きなことができるというサイクルを学ぶことも、学校教育で大切にしたい側面です。

かといって、人間関係が伴うような不確定要素の多い学習を避けて通り過ぎるのも、その子の学校教育が終わった後に問題を先送りして、結局その子が人生を楽しめなくなることにも繋がりかねません。特別支援に関わる先生は特に、その子の生涯を俯瞰して見られる視点が必要です。

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