「問題記述の明確化」を大切にした歴史家の時間

社会科ワークショップ
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「歴史家の時間」って?

歴史家の時間を通して、一人ひとりが学習テーマをもち、それをじっくり育て、具体化させていくという取り組みを行っています。

歴史家の時間とは、作家の時間や読書家の時間の枠組みを応用して、それを社会科、特に歴史の分野に当てはめるとどんな実践になるのかを、先鋭のメンバーと一緒に試みています。

自分にとっては、試行錯誤でもう7年目ぐらいの実践になります。各学年で、記者の時間、市民の時間、まちのサポーターの時間など、いろいろ名称は変化していきますが、作家の時間や読書家の時間のサイクルを応用していることには変わりはありません。

子どもたちが、作家の時間や読書家の時間と同様に、わしわし活動をするので、その活動を見られることも楽しいですし、子どもたちの個性が活かされるような発表ややり取りが生じるので、教師という仕事が楽しくなるような実践です。

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学習のテーマを成長させるってどういうこと?

ヒントを得たのは、「PBL 学びの可能性をひらく授業づくり」(北大路書房)にある、「問題記述の明確化」です。教師が設定した状況設定の中から、子どもたち自身が問題を見つけ出し、そしてそれを文章にして明確化していくという実践が掲載されています。

つまり、一般的な教室のように、子どもの話し合いの中から生まれた学習問題を黒板の一番上に書いて、それをめあてとするのではなく、実際に近い問題をはらむ状況の中から、子ども一人ひとりが問題を見つけ出すプロセスを経験し、さらに、それを文章によって明確化することによって、子ども一人ひとりがどのように状況から問題を認識しているのかを把握していくことになります。

もっとも大切な力は、問題に気付き、明確化する力

読書家の時間で、もっとも大切な思考のサイクルが、「選書」であることは言うまでもありません。選書力がなければ、自分の目的に合った本を選べませんし、自分の力量に沿った本を選ぶことはできません。そして、「選書」は、もっとも端的に、その子の読む力や実態を表す学習プロセスにもなります。それを、ある意味で、省いてしまっているのが、教科書。全員が教科書を使うことによって、子どもは、読書生活においてもっとも大切な力である選書力を磨く機会が、授業の中で失われてしまいます。

それと同じように、教師が黒板の一番上に学習問題を書くということは、子どもが生活をしていく上でもっとも大切な、「問題に気付き、明確化する力」を奪ってしまうことになります。

たしかに、子どもたち全員の話合いで練り上げた学習問題に価値があることは確かです。けれども、私たちの生活上で分かる通り、40人の話し合いの中で練り上げた学習問題にオウナーシップを持てる人というのは、1割程度でしょう。一部の子どもは、強いオウナーシップをもって問題の明確化を行うことできますが、ほとんどの子が問題づくりに対して「傍観者」になってしまい、このもっとも大切な「問題に気付き、明確化する力」を育てることができなくなってしまいます。「選書」のプロセスを省略されてしまう教科書偏重の学習と同じ構造です。

ちなみに、うちの子も、2年生にしては、大人もびっくりの読書力をもっていますが、「選書力」に関しては、まだまだ低いです。何の助言もないと、「表紙かわいい系」や「ホラー系」にいつの間にか没頭しています。良い本を選べるということは、生活経験や読書経験が醸造されて、最後に身につく力なのだと考えています。

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問題に気付き、明確化する力を育てる

「選書」を育てるには、自分で選書して、読んで、振り返るしかありません。そこに、教師のカンファランス(コーチング)が入って、軌道修正され、選書力はトライ・アンド・エラーを経て育っていきます。最初は、稚拙な本や自分に合わない本を選んでしまうことは仕方のないことです。しかし、そのプロセスを経験しないと、自分にあった本を選べるというプロセスには到達しません。大人が本を選んであげることよりも、子どもが選んだ本から選書力を鍛えることのほうが、遥かに大切です。

同じように、「問題に気付き、明確化する力」は、自分で問題を見つけないと、育てることはできません。最初は、稚拙な問題や難しすぎる問題を設定してしまうことでしょう。けれど、それを子ども一人ひとりに保証してあげないと、生活の中で問題に気付き探究していこうとする力は身につきません。教師や意欲の高い子がそのプロセスを奪ってしまってはいけないのです。

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PBLと歴史家の時間の問題記述の明確化の違い

このように、一人ひとりが問題状況の中から、問題に気づき、明確化する学習プロセスを大切にしているのが、このPBLの実践です。

PBLの実践では、教師が問題状況をかなり具体的に作り上げ、そのプレイグラウンドの中で子どもたちが遊ぶように学んでいるような実践と、僕個人としては考えています。素晴らしい実践です。

歴史家の時間では、そこまで問題状況を作り込むことができません。けれど、一人ひとりが学習問題や学習テーマをもち、それを本やフィールドワークを通じて探究することによって、学習問題や学習テーマが明確化・具体的・本質化し、変化していきます。

ですから、それを振り返りと同じように、自分の学習テーマを育てていって、問題に気づき、明確化する力を育てていっています。カンファランスやジャーナルによって、テーマについてどう調べているか以上に、テーマをどのように育てているかという視点を大切にしています。

歴史は相当に作り込まれたプレイグラウンドだと言っても良いように思います。良い意味で、生活からは少し切り離されたところにありますし、そのために客観的に事象を見ることができるように思います。生活に近すぎると、日常化してしまっていて問題に気づきにくいということはよくある話です。安易な表現ですが、時代区分や、人物、政治、文化などの区分によって、プレイグラウンドを区切りやすいという点もあるように思います。

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具体的な子どもたちの反応まで書こうと思いましたが、すぐに長くなりすぎてしまうので、このへんで、続きはまた今度。

 

 

コメント

  1. M.Tsubakiyama より:

    中学校で「読書家の時間」を始めました。最初この実践を聞いた10年前は、公立中では無理だと思っていましたが、やっと「やれそう」と自分の中で思えました。やってみてやはり「選書」が課題かなと思い、試行錯誤しています。「読書感想文を書く」を緩やかなゴールにしているので、それを目指して、ペア読書など、色々工夫してみたいと思います。歴史家も面白そうですね。私は歴史を教えることはないですが、総合的な学習などで応用できるかもしれません、また教えて下さい。

    • トミー より:

      始められましたか!!大変なことも多いと思いますが、子どもたちの生き生きと学ぶ様子をみて頑張ってください。

      最初は先生がチョイスボードを作って、子どもたちがその中から選べるようにするのも方法です。中学校の先生方に協力を依頼して、色々な本の紹介文を書いてもらうと、いいですよね。中学生ならすぐに紹介文を書けるようになるので、子どもたちのチョイスボードも面白そう。本と人をつなげることが大切です。

      中学校の実践なら、あすこまさんのブログが素晴らしいと思います。ぜひ、読んでみてください。

      http://askoma.info/

  2. M.Tsubakiyama より:

    「本と人をつなげる」が今後のキーワードになりそうです。ありがとうございます。いろいろやってみます。

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