まだ見ぬ自分という「外」に出会う 『君の物語が君らしく』 

ライティング・ワークショップ

澤田さんの本『君の物語が君らしく』が出版されました。さらっと読み終えてしまえる分量の本です。軽くて、爽やかで、たおやかな本です。内容については、他の方がきっと魅力的に紹介してくださっているとおもいます。僕は自分勝手なことを書きました。『君の物語が君らしく』と自分との間に生じた化学反応で、僕は昔の自分を思い出しました。

あすこまっ!
国語科教員の日記。作文教育・授業・学校図書館など。

「宇宙とは何か」という迷惑なメール

大学生の頃、僕は、バスケットボール・サークルの運営をやっていたことがあります。近くの高校の体育館の予約をとり、それをメンバーにメールで連絡するだけの役割でした。月に1回程度、翌月の日程をメールするのですが、無味乾燥な日程メールを送るだけでは面白くなくなって、そのうち、適当なことを書きはじめたのです。

そのメールに、最近考えたこととか、おもしろかったこととか、自分なりに書くようになりました。簡単な文章で終わることもあれば、すごい長文になることもありました。何を書いていたか、よく覚えていないのですが、「時間」とか「宇宙」とか、けっこう哲学的なこともテーマに取り上げていたように思います。

実はすごく哲学的なことを書きたいとか考えていたわけではなくて、「宇宙って不思議ですよね。なぜかというと・・・」なんて書いていると、どんどん深みにハマっていってしまうという感じです。書き上げてみると、「あぁ、僕はこんなことを考えていたのかぁ。知らなかった。」と、なるわけです。おれって書くの好きなんだなあと思い始めたのは、この頃です。

サークルのメンバーにとっては、ありがた迷惑というか、どうやって反応したら良いか、わからない状況だったのだろうと想像しています。毎月、バスケの日程だけ分かればいいのに、何やらよくわからない「宇宙とは」とかいう「自己満メール」が送られてくるわけですから。優しい友達は、スルーしてくれていました。そして、変な友達は「宇宙、面白かった!」コメントをくれました。愛読者といっていいのか、迷惑メールっぽいですが、まがりなりにも読者がいたことになります。それが、2、3年も続きました。

最初は、「ただ日程を送るだけなのも、なんだから」と書き始めたことがきっかけで、毎月書くという習慣が始まりました。そして、一応優しい読者もいました。僕にとっての「自分をつくるライティング」はここから始まったように思います。

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書くことで、ジョハリの窓を広げよう

僕は、国語の読書と作文が最も苦手な勉強で、小・中・高の時代に、書くということを楽しんだ経験はありません。書くとは、成績を取るための作業でした。そして、全く書けませんでした。そもそも、小学校は作文用紙と睨めっこをしていた記憶が若干残っていますが、中と高で何か文章で自分の意見をまとめた記憶がほぼありません。本当にやっていなかったのか、忘れてしまったのか、全然わからないほど、記憶にないのです。この楽しさを、小学校の時から味わえていたらと思い返します。

だからなのかな。僕は、今、作家の時間という学習に思い入れがあるのだと思います。

ジョハリの窓という考え方があります。「自分も他者も知っている自分」「自分は知らないけれど他者は知っている自分」「自分だけが知っている自分」「自分も他者も知らない自分」ジョハリの窓は、4つの窓で自分を表現しています。作家の時間を通じて、自分が知らない自分に何か作用が働いて、目前に文字という形で立ち現れてきます。それがなんだかよく分からなくて、一生懸命、言葉で輪郭を固めていって、結局ふにゃふにゃでよく分からないけど、後々になってそれが自分をよく表しているテーマになったりするのです。自分の知っている自分が、少しずつ広がっていく感覚です。

この本の中に「中」「外」という言葉ができてますが、ジョハリの窓のように、まだ見ぬ自分という「外」に、出会うことができるのが、書くことの良さではないかと思います。そして、自分がすでに持っている「中」と自分の知らない「外」との中間地点で起こる化学反応を楽しむことが、書くことなのではないかと思います。「中」の自分と「外」の自分が出会うって、本当に素敵な体験です。みんな、大人も子どもも、作家の時間をしてほしいと思っています。

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今年作家の時間を始めたい先生へ

『君の物語が君らしく』をきっかけに、「作家の時間」や「読書家の時間」を始めたい人が広がってくれるといいなあと思っています。最近、WW/RW便りに、新しく始めたい人向けの応援メッセージを書きましたので、こちらもぜひどうぞ。

今年から作家の時間を始めたい先生へ
4月から、作家の時間に新しく挑戦したいという先生方がいらっしゃるのではないかと思います。子どもたちが自分を表現することや本を作ることに夢中になれる教え方・学び方です。ぜひとも挑戦してほしいのですが、これまでの教科書主導の国語とは大きくスタン...

 

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