いま、地方で生きるということ 西村佳哲
僕はこの西村佳哲さんの、なんとなく淡々とした書き口が、自分にはしっくり来ています。
価値観を提示するわけではなく、読者にあまり味付けをしないで、そのままの食材をかじってごらんと提供する感じ。
この本を読んで、一筋の光明を見いだせるわけではなく、西村さんと一緒に旅をして、散歩をし、傍らに座りインタビューを聞いている感覚になる。そんな本です。
西村さんの本は、「自分の仕事をつくる」と「かかわり方のまなび方」も読みました。どちらもおすすめです。後者はワークショップデザインとかファシリテーションに興味のある人には、必読だと思います。
価値観は自分で作る
前段で書いたとおり、これを読んで、みんなが仰ぐ光明が提示されているわけではありません。決して、地方移住を礼賛しているわけでもないし、都会での生活を辛口に批判しているわけでもありません。
僕自身も、どこか別の場所への移住には憧れを持っています。もっと、人間が自然な形で暮らしていくためにはどうしたらいいのか。自由に形を変えられる自分の可能性を予感しながら、行きていけたらいいなあと。
都会はだめ、地方はいい、ではなく、自分にとって、どのように生きたいのかということを、自然と考えてしまいます。
「どんな仕事するか?という前に、生きてゆく場所を決めなさい」
こんな金言が、さして強調されることなく佇んでいるが、心を開かれる思いがする。どんな生き方をしたいかによって、仕事は変わってくるし、どんな生き方をしたいかによって、住む場所もかわってくる。要は、自分に残された時間の使い方を問われているということだ。
自分の価値観を少しずつ彫り表していく過程で、なんとなく形になってきたところで、住む場所や仕事の仕方が変えられればいいなと思う。そのためには、多少のリスクをとってでも、自由さに価値を置いていかないと、そのような生き方はできない。本当に難しいと思う。
価値観は変化する
10年前の自分の価値観と、今の自分の価値観が、まるで違うことに自分でも驚いてしまう。もっとマッチョな価値観を持っていたし、当時の僕が今の僕を見たら、きっとシニカルというか、ペシミストっぽく映るかもしれない。
でも、他の人の価値観に迎合しないで、自分の価値観を彫り込んでいくと、やっぱり自分にしか無い価値観が出てくるし、それを追い求めていくと、やっぱり他にはない選択肢を追求していくことになる。
10年前は、こんなに家族や他の人の価値観を大切にしようなんてこれっぽちも思わなかったし、自己実現のためだけに動いていたように思う。もっと目に見える価値観に依存的だったように思うし、自分の中にある本質にも無頓着だった。
10年、20年と時間を重ねるごとに、自分の追い求めていた価値観の輪郭が見えてくるだろうし、東日本大震災のような何かが起きて、自分の価値観を大きく変化させるようなこともおきるかもしれない。
10年後の自分が今の自分を見たら、今はまだ片鱗さえ掴んでいない価値観で言葉を送っているのかもしれない。当たり前だけど、10年後の自分は想像できないし、想像できないほうがおもしろい。
数字で表せる価値はわかりやすいけど。
そう思うと、やっぱり、今の自分の感覚にない決定ができるかもしれない自由さというのは、すごく価値があるような気がする。
家族が元気で健やかであるという価値も、10年前では想像もできなかった。
10年前は、何か目に見えたり、数値で表せる価値でないと、実感ができなかったのかもしれない。他人にもしっかり理解してもらえる数字で表せる価値。承認欲求が満たされていなかったのかな。
この本に出てくる人たちも、もうとっくのとうにそういう価値観には本質がないと考えている。自分はどういう生き方がしたいのか、ある意味でとても内向的に、自身と向き合った末に出た価値観を大切にしているように思った。他の人と一緒に呑まれたほうがどれだけ楽なことか。憧れのあり方だなあ。
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