HIGH FIVE MAGAZINEに寄稿 感情を出すことは怖いですか?

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感情を出すことは怖いですか?
 わたしたちは産声を上げた瞬間から、とても感情的な生き物です。わたしたちが赤ん坊だった時、泣いたり笑ったり驚いたり喜んだり、体から溢れ出る感情を輝かせて、相手にいろいろなことを伝えてきました。
 例えば、うちのあおいちゃんは、ズボンを履こうとして「できないー!!」と叫びます。できないことが悔しくて悔しくて仕方がないのでしょう。心の底からできるようになりたくて、感情が溢れてしまうのでしょう。
 そして、わたしがズボンを履かせてあげようとすると、今度はこう言います。「じぶんでー!!!」きっと、あおいちゃんとしては、もう少しでできそうなのでしょう。ズボンを履けたという達成感を味わいたいにもかかわらず、横から余計な手助けが入り、怒っているのだと思います。もっとわたしに時間を託してはどうか、もっとわたしを信頼してはどうか、と心のなかで叫んでいるのだと思います。
 そう言われるもんだから、手を貸さずに見ていると、やっぱり「できないー!!」と言うわけです。手を貸そうとすると、「じぶんでー!!!」そして、混乱して泣きじゃくります。あおいちゃんの意志を尊重して、ズボンを履かせずに寝かせたこともありました。
 すると、そのうちスポッとズボンを履くんですね。ものすごく嬉しそうな顔をして自慢してきます。まるでシンデレラのドレスでも着たかのように誇らしげな顔です。やっぱりあれだけの感情を込めて情熱的に学ぼうとしているのですから、ズボンを履くという困難な作業もすぐに学び取ってしまいます。今では、かなりの成功率でズボンを履きます。(たまに裏返し)
 感情と学習は切っても切り離せないものなのは知っていますか。「人はすぐに忘れる生き物である」ということは繰り返しみなさんに伝えて来ましたが、実はそうとも言い切れないことがあります。それこそ、感情が大きく動いた学習内容については、脳は絶対に忘れない記憶として残るということです。
 例えば、漢字がなかなか覚えられないという人もいるでしょう。実はわたしもそうでした。ノートに繰り返し書いたとしても、忘れてしまうのですね。よく分かります。次の日のテストはできたとしても、3ヶ月後のテストには覚えていません。わたしもそうでした。ノートに繰り返し練習をしている時、あなたの感情はほとんど動いていないでしょう。
 けれども、例えば、ノートに漢字練習をしているときに、ある漢字が突然起き上がり、話しかけてきたらどうでしょうか。おそらく発狂するぐらい驚くでしょうね。突然「講」という字が講義をしてきたら、おそらく「講」という字は忘れないでしょう。それは、驚くという感情がその字と結びついているからです。
 大切な友達の顔を忘れないのは、その友達の顔とケンカをして悲しんだり、喜び合ったりした感情が結びついているからです。思い出の場所の名前を忘れないのは、また行ってみたい、もう二度と行きたくないという感情が結びついているからなのです。
 もう十分大人の方に片足を突っ込んでいる皆さんならば、きっとイメージしてもらえるでしょうが、わたしたち大人は、感情をあまり表に出さずに生活をするようにしています。大人は子どものように、喜びのあまり踊ったりしませんし、怒りの感情が爆発することもないです。(たまにありますが、みなさんの親御さんも、先生も)それが社会的公的な場ならなおさらです。職員室で先生たちの多くが、激昂したり、声を上げて泣いていたりしていたらどうでしょうか。おそらく、この学校にはついていけないと思うかもしれませんね。
 大人になるに従って、感情をコントロールする術を身に着けていきます。「大きな声を出してはいけません。」「この場でこのような発言はするべきではありません。」と、まわりの大人に教えられ、みなさんも少しずつ、あおいちゃんぐらい感情的だった頃とは比べ物にならないほど、感情を内側に引っ込めることができるようになったのではないでしょうか。すごくうれしくても、あまり嬉しそうにしない。すごく悲しくても、涙を流さない。怒りに打ち震えていても、冷静さを保つ。大人ですね。わたしもそうです。
 それは、大切なことなのですが、おそらく問題点もあるでしょう。感情を内側に閉じ込めすぎて、常に感情を出さないように暮らしていないか、ということです。感情はそんなに良くないものなのでしょうか。
 感情は言葉以上に相手の心に直接響くものです。感動に涙する人を前にして、わたしたちの心は、その人の心にある背景を思い描き、自分も涙してしまうことがあります。卒業を祝う会で、涙する6年生に、何人かの5年生が、そしてわたしも、目頭を熱くしました。だれも、その6年生がなぜ涙しているのかを聞いたわけではありません。けれど、その6年生の感情が、わたしたちの心を揺れ動かしたのです。
 その6年生はそれだけ感情が動いたのですから、忘れられない1日になったでしょう。今までの6年間の思い出、祝ってくれる下級生たちの思い、それが響きとなって伝わってきたのでしょう。その反響が、わたしたちの心にも届いているのです。
 感情を出すことは、怖いことです。怒ったら、みんなわたしのことをどう思うだろう。涙を流して泣いたら、友達はひいてしまうかもしれない。ガッツポーズで喜んでも、喜んでいるのは自分一人かもしれない。
 だから、あなたは感情を出さない大人になりますか?喜怒哀楽を抑えた知的でスマートな人になりますか?感情を出すことは、怖いから、相手に感情を伝えるのは止めますか?
 わたしは、皆さんに彩りに満ちた人生を送ってほしいと思います。大人になることはとても大切ですよ。けれど、それよりももっと大切なことがあるはず。怒って、泣いて、驚いて、そして、喜んで、自分の心をたくさんの色で鮮やかにしてください。感情を解き放つことを恐れず、そして、自分の感情をコントロールしつつ、残り少ない小学校生活を送ってほしいと思います。

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